藤倉化成株式会社/安齊秀伸氏・長妻明美氏インタビュー

歩行練習デバイス「RoboChemia® GS Knee®」に二足歩行ロボットを制御するV-Sidoを採用

塗装事業、電子材料事業やコーティング事業、化学品事業などを手掛ける科学メーカーとして、創業から80有余年、革新的な技術開発に挑み、独自の製品を開発してきた藤倉化成株式会社。同社の固有技術を応用して開発しているのが、リハビリテーション向けの歩行練習デバイス「RoboChemia® GS Knee®」です。

長下肢装具の膝部分に取り付ける「RoboChemia® GS Knee®」は、膝にブレーキをかけた状態と自由に屈伸できる状態とを切り替えることで、リハビリテーションにおいて身体的負担の少ない歩行練習が可能に。その大きな特徴である、膝回転を抑制するブレーキ装置の制御に当社の「V-Sido」が採用されています。今回は、「V-Sido」の導入に至った経緯や、それにより得られた効果、今後の展望などについて、「RoboChemia® GS Knee®」の開発を担当した、藤倉化成株式会社 ERG研究開発部の安齊秀伸氏と長妻明美氏にお話を伺いました。

安齊秀伸(あんざい・ひでのぶ)

藤倉化成株式会社 ERG研究開発部

1994年に藤倉化成株式会社に入社。新素材の研究開発、応用に従事。新素材:電気粘性流体(ERF)と、それの発展形となる電気吸引材料(EAM、EAG)の開発・応用に従事する。

長妻明美(ながつま・あけみ)

藤倉化成株式会社 ERG研究開発部

東京電機大学医用精密工学研究室(三井研究室)にて藤倉化成株式会社と共同研究していた経験を活かし、2018年に入社。新素材の応用機器開発に従事する。

医療関係者の声から開発がスタートした歩行練習デバイス

―― まずは、「RoboChemia® GS Knee®」の開発経緯をお聞かせください。

安齊:「RoboChemia® GS Knee®」は、脳血管疾患による片麻痺患者の早期リハビリテーション向けの歩行練習を支援するデバイスです。脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血などの脳血管疾患は日本人の死因の上位に入りますが、回復できても片麻痺になり、足や膝をうまく動かせず、リハビリテーションや歩行練習が必要になることが多いです。けれども従来の一般的な長下肢装具は、膝関節を完全に固定した状態で使用されるため、患者さんは膝を曲げることができず、不自然な歩行になってしまうという課題がありました。

そうしたなか、千里リハビリテーション病院副院長の吉尾雅春先生と国際医療福祉大学大学院の山本澄子教授から、「体重がかかっていない時に膝が自由に曲がる装具を作れないか」という提案があったのです。これを実現するために、東京電機大学三井研究室と共に「EAMブレーキデバイス」の開発に取り組むところからはじまりました。

―― 「EAMブレーキデバイス」に使用されている機能素材「EAM(Electro Attractive Materia:電気的吸引材料)」の特徴を教えてください。

安齊:「EAM」は先ほど申し上げた三井研究室と共同研究している新素材で、与える電圧の大きさで摩擦が変化するシートです。素材に電圧を加えると、その対抗面にある素材を吸い寄せる機能があります。

長妻:電圧を上げると吸い付く力も大きくなります。その機能を応用したのが「EAMブレーキデバイス」です。「EAM」を円形の電極ではさみ、シャフトを通すことで、電圧で抵抗トルクを調節してブレーキをかけるという仕組みになっています。

―― 「EAMブレーキデバイス」を応用した「RoboChemia® GS Knee®」には、どのような特徴があるのでしょうか?

安齊:「RoboChemia® GS Knee®」は、長下肢装具の膝継手に取り付けるだけで、膝にブレーキをかけた状態と自由に曲がる状態を任意のタイミングで切り替えることができます。理学療法士が患者さんの動きに合わせて手元のスイッチで膝の動きを制御することで、脚に体重がかかっている時はブレーキをかけて体重を支えて転倒を防ぎ、歩行時は膝を自由に曲げられるようになります。これによって自然な歩行が可能になり、身体的負担を軽減したリハビリテーションが行えるのです。

二足歩行ロボットを制御する「V-Sido」は、人間の動きの制御にも通用する

―― 「RoboChemia® GS Knee®」における「V-Sido」の役割を教えてください。

安齊:「V-Sido」は「EAMブレーキデバイス」のコントロールをしています。我々はソフトが作れないので、すべて「V-Sido」が担っている形です。アスラテック様には、二足歩行ロボットの制御技術を応用した歩行制御のアルゴリズムを基に、ブレーキ制御に関わるプログラムや基板の開発で協力いただきました。

―― 「V-Sido」が福祉・介護分野に採用されたのは初めての事例です。どのような経緯で「V-Sido」が採用されることになったのかお聞かせください。

安齊:「V-Sido」をはじめて知ったのは、NHKの番組『サイエンスZERO』でした。ロボットが自立歩行をし、なおかつ外力に対して非常に強いというところに興味を持ち、二足歩行ロボットの膝の部分を応用し、人間の膝の動きを制御する「RoboChemia® GS Knee®」を「V-Sido」でコンロトールできないかと考え、お声掛けさせていただきました。

発売はこれからですが、まず製品化までこぎつけられたのは「V-Sido」というソフトウェアのバックアップが大きいと感じています。最初は他社のロボット制御システムも検討しましたが、やはり二足歩行ロボットのOSであるという点が、膝のコンロトールを行うという目的に大きく合致しました。

「V-Sido」のようにOSとして提供している会社があまりないということもありますし、ライセンスビジネスとして提供されているという点でも非常に魅力を感じました。「RoboChemia® GS Knee®」の場合、試作段階では開発ライセンス、モニター段階で商用ライセンスを提供いただくことで、商用化までのハードルがかなり低くなりました。ソフトウェアという目に見えない電子データではあるけれども、製品の中に組み込まれている非常に重要な部品のひとつです。

―― ロボットではなく人の膝をコントロールする上で、「V-Sido」のメリットはどのようなところにあるのでしょうか?

安齊:当初は足の裏にセンサーを入れ、それによってコントロールすることも考えていました。けれども、麻痺をしている患者さんは足のどこを使っているのかが分からないため、その動きを拾って制御に使うことはできません。「V-Sido」の場合、本体に入れた加速度センサーやジャイロなどで制御できるというメリットがあります。

最初の段階で、健常者の歩行における膝のコントロールをすべて「V-Sido」によって自動で行えたというのは画期的なことでした。膝のブレーキをコントロールすることは非常に難しく、やはり二足歩行ロボットの制御技術だけあるなと感じました。

ただ、麻痺している患者さんの歩き方は健常者とは全く異なっていて、患者さんを支えるにはまだ危険な部分がありました。そのため自動ではなく、患者さんの動きに応じて理学療法士がスイッチで操作するようにしたのです。現場運用を実施している病院からも非常に良い反応をいただいています。

健康・福祉の分野でさらなる応用が広がる可能性

―― 「RoboChemia® GS Knee®」を体感された患者様や理学療法士の方からは、どのような反応がありますか?

安齊:これまで千里リハビリテーションをはじめとする全国約30の病院で、モニターとして使っていただいている段階ですが、先生方からは「こういうものが欲しかった」とおっしゃっていただけています。従来の歩行練習は常時足を伸ばしたままでしたが、「RoboChemia® GS Knee®」を使うことで膝を曲げて歩けるようになり、より本来の歩行容姿に近いリハビリテーションが実現できているとのことです。

長妻:病院の先生方からの感想はもちろん、患者さんやそのご家族から問い合わせがくることもあり、待ってくれている人がいることを近くで感じるので非常にやりがいがあります。

ただ、もっと多くの方に認知を広めていく必要もあります。製品の紹介をする時に、実はアスラテック様のお名前にもお力を借りています。吉崎氏のお名前や、吉崎氏がソフトを提供したロボットの話をさせてもらっていて、その会社が作っているソフトが入っていると言うと、みなさんに興味を持っていただけるんです。

―― アスラテックに期待することや、「V-Sido」との連携を強めていきたい分野についての想定はありますか?

安齊:今回の「RoboChemia® GS Knee®」に使った技術を応用してウェアラブルな機器を作っていくこと、この技術を健康・福祉の分野へ応用することを考えています。我々が開発しているのは、人の体に着けて動かしたり、補助をしたりするものです。次のターゲットとしては、人の体の状態を検知し、それを補助するものを考えていますが、これらはロボットに通じるところがあるものです。
アスラテック様とはこれからも深く長いお付き合いをしていきたいと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。

(2023年2月24日公開)

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